小説コスメディナ(2) 黒のペディキュア ― 色気とは?

小説コスメディナ(2) 黒のペディキュア ― 色気とは?

足の爪を黒色に染めてみようと思ったのは、たまたまネットサーフィンをしていた時に、黒いペディキュアを塗っているイラストを見て、大人っぽいし、何だか色気があると感じたからだった。

思い立ったら行動が早い純花(すみか)は、さっそく黒のマニキュアを買ってきて塗ってみた。

black

はじめは、黒のペディキュアなんて街中でも見たことはないし、もしかしてかなり浮いてしまうんじゃないか、ギョッとして見られないか、などと不安にもなったけれど、意外とそんなに目立ちすぎることはないし、爪の色が濃いと、対比されて肌の色が白く見える。

あまり派手ではない自分が、実は黒いペディキュアを塗っていたら、その意外性もあって、なんだかドキッとさせるかも。

智樹も、「ピンクとかより、なんか黒の方が合ってるかもね。」と言ってくれたので、「どうかな、色気ある?」と聞いてみたところ、「色気があるかはわかんないけど…。」と歯切れの悪い返事。

え・・・・。

大人の色気が出たかなと思ってたのに、なんで・・・?

私って色気ないかな、と聞いたところ、智樹は嫌な雲行きになってきたなという顔をしながら、「色気ってよくわからないけど、言葉遣いとかしぐさとかかな?」と言って、あとは必死に話題を変えようとしてきた。

言葉づかいね~・・・。

うーん、そもそも、色気ある?とか聞くこと自体が、色気なかったかしら・・・。

色気ってどうすれば出てくるものなの?

そもそも、色気ってどんなもの?

それから数日、「色気とは何か」について調べるのが純花の日課になり、ネットで検索してみたり、雑誌のコラムを読んでみたりした。

たいていの場合、わざとらしい外見のセクシーさではなくて、物を丁寧に扱うしぐさや、姿勢の良さといったことが書いてあり、品があり丁寧なしぐさに色気があるとされていた。

また、逆に、どうやら、きちんとしすぎているだけでなくて、隙があることが大事とされていたり、ミステリアスな部分があるといったことも大事ならしい。

言葉遣いでいえば、ゆっくりと、間を大切に話すことが挙げられていたりして、わりと早口に話しがちな純花は少しギクッとした。

中でも、とくに純花の印象に残ったのは、雑誌に載っていた美輪明宏さんの「色気とは、男性に“この女性は俺に恥をかかせないな”と思わせる、上品な優しさや包容力」という言葉。

呼ばれたら「なぁに?」とおっとり振り向くような女性、しぐさや形ではない、精神的なもの-優しさや包容力こそが色気なのだという。

なんとなくだけど、つかめてきたような。

色気はつまり、身の回りのものや相手を大切にすること、大切に出来るような心の余裕が、しぐさや言葉遣いに自然とにじみ出て、そこに色気が感じられるのかな?

色気の対極にあるのは、地味とか子どもっぽさとかではなくて、「がさつ」なのかもしれない。

そう考えると、どうやら色気というものは、黒いペディキュアを塗れば出てくるというものではなさそう。

私にはまだまだ修行が必要かな、と純花は思いながら、でも、爪をきれいに塗っている時は、その爪先にまで意識が向いて、なんとなく上品なしぐさができているような気もして。

色気って形やしぐさではないけれど、まずは型から入るのも、悪くはないのかもしれないな、などと思うのだった。

まずは、日常の細部(ディテール)を、丁寧に大切にしていくことから始めてみよう。

‐ つづく‐

sumika

主人公:野村純花(のむら すみか)

都内の小さな会社で働く、29歳のOL。

交際5年の恋人、智樹(ともき)がいる。

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