小説コスメディナ(2) 黒のペディキュア ― 色気とは?
Date:2015/5/13
足の爪を黒色に染めてみようと思ったのは、たまたまネットサーフィンをしていた時に、黒いペディキュアを塗っているイラストを見て、大人っぽいし、何だか色気があると感じたからだった。
思い立ったら行動が早い純花(すみか)は、さっそく黒のマニキュアを買ってきて塗ってみた。
はじめは、黒のペディキュアなんて街中でも見たことはないし、もしかしてかなり浮いてしまうんじゃないか、ギョッとして見られないか、などと不安にもなったけれど、意外とそんなに目立ちすぎることはないし、爪の色が濃いと、対比されて肌の色が白く見える。
あまり派手ではない自分が、実は黒いペディキュアを塗っていたら、その意外性もあって、なんだかドキッとさせるかも。
智樹も、「ピンクとかより、なんか黒の方が合ってるかもね。」と言ってくれたので、「どうかな、色気ある?」と聞いてみたところ、「色気があるかはわかんないけど…。」と歯切れの悪い返事。
え・・・・。
大人の色気が出たかなと思ってたのに、なんで・・・?
私って色気ないかな、と聞いたところ、智樹は嫌な雲行きになってきたなという顔をしながら、「色気ってよくわからないけど、言葉遣いとかしぐさとかかな?」と言って、あとは必死に話題を変えようとしてきた。
言葉づかいね~・・・。
うーん、そもそも、色気ある?とか聞くこと自体が、色気なかったかしら・・・。
色気ってどうすれば出てくるものなの?
そもそも、色気ってどんなもの?
それから数日、「色気とは何か」について調べるのが純花の日課になり、ネットで検索してみたり、雑誌のコラムを読んでみたりした。
たいていの場合、わざとらしい外見のセクシーさではなくて、物を丁寧に扱うしぐさや、姿勢の良さといったことが書いてあり、品があり丁寧なしぐさに色気があるとされていた。
また、逆に、どうやら、きちんとしすぎているだけでなくて、隙があることが大事とされていたり、ミステリアスな部分があるといったことも大事ならしい。
言葉遣いでいえば、ゆっくりと、間を大切に話すことが挙げられていたりして、わりと早口に話しがちな純花は少しギクッとした。
中でも、とくに純花の印象に残ったのは、雑誌に載っていた美輪明宏さんの「色気とは、男性に“この女性は俺に恥をかかせないな”と思わせる、上品な優しさや包容力」という言葉。
呼ばれたら「なぁに?」とおっとり振り向くような女性、しぐさや形ではない、精神的なもの-優しさや包容力こそが色気なのだという。
なんとなくだけど、つかめてきたような。
色気はつまり、身の回りのものや相手を大切にすること、大切に出来るような心の余裕が、しぐさや言葉遣いに自然とにじみ出て、そこに色気が感じられるのかな?
色気の対極にあるのは、地味とか子どもっぽさとかではなくて、「がさつ」なのかもしれない。
そう考えると、どうやら色気というものは、黒いペディキュアを塗れば出てくるというものではなさそう。
私にはまだまだ修行が必要かな、と純花は思いながら、でも、爪をきれいに塗っている時は、その爪先にまで意識が向いて、なんとなく上品なしぐさができているような気もして。
色気って形やしぐさではないけれど、まずは型から入るのも、悪くはないのかもしれないな、などと思うのだった。
まずは、日常の細部(ディテール)を、丁寧に大切にしていくことから始めてみよう。
‐ つづく‐

主人公:野村純花(のむら すみか)
都内の小さな会社で働く、29歳のOL。
交際5年の恋人、智樹(ともき)がいる。
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