小説コスメディナ⑴ 空花色の口紅
Date:2015/5/5

主人公:野村純花(のむら すみか)
29歳のOL。
都内の小さな会社で事務をしている。
自分に似合う口紅の色があるっていうけど、自分には絶対、「誰にでも合う」のが売りの無難なピンクベージュしか似合わないと思う。
去年、赤の口紅が流行したときに思い切って買ってみて、付き合って5年目になる智樹(ともき)に「老けて見える」といわれてから、純花(すみか)はよりいっそう強くそう信じてきた。
だから、スカイフラワーと名付けられた、初夏の青空に映えそうな、軽やかだけど鮮やかなピンクの口紅を初めて見たときも、自分がつけたら浮いて見えると決めつけていた。
ただ、その隣にあった限定色のアイシャドウが、淡いピンクと水色とベージュの絶妙な組み合わせで見入ってしまい、いつもなら店員に話しかけられたらあいまいに微笑んで逃げるのに、自分から、このアイシャドウと合う口紅は?と聞いてすらいた。
店員は純花の顔を少し見つめたあと、「ポスターと同じように、こちらの口紅が良いかと思います。」と勧めてきて、店員に勧められるがまま、このスカイフラワーの口紅をつけてみることになったのだった。
店員は、色が白いから絶対にこういうパステルカラーのメイクが似合う、似合わない人には似合わないし、せっかくだからつけないともったいない、などと話しながら、アイシャドウと口紅を丁寧に塗り、ピンクのチークまでつけてくれた。
絶対に似合わないのになぁ・・と思いつつ、鏡を見てみると、思っていたほど顔から浮いているわけでもなく、なんだか、パッと明るく少し華やかな顔になった気がする。
思わず純花は、アイシャドウと口紅をまとめて買ってしまった。
その日は白のブラウスにベージュのスカートの、何の特徴もないいつもの服装だったけれど、ブラウンのアイシャドウとピンクベージュの口紅から、淡いニュアンスカラーの目元と明るいピンクのリップに変わっただけで、ずいぶん垢抜けた印象になった気がする。
純花は珍しく自分から、いまから会えないかと智樹に電話してみた。
珍しいねと嬉しそうに驚いていた智樹は、口紅の色の変化に気づいてくれて、「口紅、そのくらいの色のほうが似合っているね。」と言ってもらえた。
それから、メイン使いの口紅がピンクベージュからこのスカイフラワーに変わったのだけど、この口紅をつけていると、不思議と自分の気分まで明るくなっていく気がする。
五月晴れの空にスカイフラワーの口紅をかざしてみて、純花は楽しそうに、以前より鮮やかな笑顔を見せた。
– つづく –
登場したコスメ
資生堂マキアージュ
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